戦前~戦時期にかけての工業統計表(工場統計表)メモ

工業統計は統計法で指定される基幹統計の一つで、日本の工業の実態を明らかにする基礎資料であり、経済産業省により毎年実施されています。

その沿革は経済産業省のWebサイトに掲載されていますが、調査の開始は1909年(明治42年)にさかのぼります。

ここでは、メモ代わりに戦前から戦時期までの同調査の変遷と留意点をまとめてみます。なお過去の調査報告書はPDFですがすべて経済産業省の「工業統計アーカイブス」からダウンロードできます。

まず、当初は「工場統計表」として農商務省管轄で1909年から5年ごとに行われていました。調査日は当初から12月31日現在となっています。そして、1919年以降は毎年実施されることになりました。

当初は職工平均5人以上を使用する工場が対象でしたが、1921年には5人未満の工場も調査することになりました。しかし、調査範囲の広範化と調査事項の増加により、調査票の記入と提出が不完全となってしまったため、1923年には常時5人以上の職工を有する工場に戻りました。調査項目も、それまでは就業時間など労働に関する内容も含まれていましたが、「労働統計実地調査」の開始により、そちらに移されました。(1923年工場統計表の「緒言」による)。

それ以降は従業者数、原動機数、賃金、生産額など表章項目はあまり変わりません。

1925年、農商務省が農林省と商工省に分割されたことにより、それ以降商工省が調査を実施しています。

1929年になると、工場調査を実施する根拠が省令から資源調査法にもとづく省令へと変更になります。調査の目的も行政上の利用に加え、国家総動員計画の立案のための調査という側面が強化され、内閣資源局が実施していた軍需調査令にもとづく工場に対する調査と統合されました(1929年工場統計表の「緒言」による)。

1936年には、「時局に鑑み公表を中止せられたるものに付其の取り扱いに関しては一切外部に漏洩せざる様特に注意せられたし」という「別冊」が作られるようになりました。

1938年の「別冊」では軍用資源秘密保護法の軍用資源秘密に該当すると記載され、(同法は1939年公布ですが、1938年の工場統計表の発行は1939年のため)、別冊の内容も従業者数が入るなど、充実していきます。

1939年には、工場調査規則を廃止して工業調査規則が制定され、「工業統計表」と名称が改められました。同時に、常時5人未満の職工を使用する工場にも調査が行われることになりました。これから1942年調査まで、上巻・中巻に「常時5人以上を職工を使用する工場」について表章され、下巻に「常時5人未満の職工を使用する工場」が表章、さらに別冊が機密扱いで非公表という形式が続きます。

1944年に刊行された1942年の調査は、1943年に設置された軍需省の総動員局動員部第三課から発行されています。

1943年、44年は調査票は提出されたものの、集計人員の不足と戦災による一部資料の焼失により統計表は刊行されませんでした。

1945年は、終戦によりそれまでの調査規則は廃止されましたが、産業再建の基本資料としての必要性から1946年1月に新たな商工省省令による工業調査規則が制定され、1945年12月末日現在までの調査が5人以上の職工を使用する工場に対して行われました(1945年工業統計表「緒言」による)。

最後に、1939-42年の工業統計表での従業者について、メモしておきます。

これは1939年の職工数5人以上の工場に対する調査票の一部です。
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従業者は、「職員」「職工」「その他の従業者」に分けられ、職員は「事務に従事する者」「技術に従事する者」に分かれます。職工は年齢階級3区分に分けられます。さらに各区分は男女別に分けられます。

中巻の表では、この従業者区分に応じて表章されています。
1.工場数及従業者数:道府県・従業者区分別の従業者数
2.従業者数(主要事業別):全国の産業・従業者区分別の従業者数
3.従業者数(主要事業別・職工数別):全国の産業・職工数区分(5-10、10-15、15-30、30-50、50-100、100-200、200-500、500-1000、1000-)・従業者区分別の従業者数
4.工場数及職工数(道府県・主要事業別):道府県・産業・従業者区分別の男女別職工数

公立工場に関しては表10で従業者数が記載されていますが、陸海軍工廠は含まれないため人数は多くありません。

職工5人未満の工場を表章する下巻では、調査票が前掲のものと異なり、従業者区分も異なります。従業者はまず「雇用労働者」と「家族従業者に分けられ、それぞれ「職工」(後者は「職工に準ずる者」)と「その他」に分けられ、さらに男女別に分けられます。

表は中巻とだいたい同じです。ここで注意する点は、従業者数が中巻の内数ではなく、外数であるという点で、全体の工業従業者数は中巻+下巻ということになります。

別冊では、機密扱いの項目が並んでいますが、中巻では軍需関係の産業小分類(たとえば「鉄砲、弾丸、兵器類製造業」「鋼船製造業」など)が記載されておらず、その項目がここで表章されています。従業者数としては中巻の従業者数の内数となっています。

なお、上巻は生産額が中心で従業者に関する項目はありません。

こんな感じでいろいろ複雑ですが、備忘録として記録。

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